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製品ナビ×EtherCAT特集
2022年12月14日 UPDATE

EtherCATネットワークを構築/運用するために
~基本設定とセキュリティー~

EtherCAT Technology Group 日本オフィス
Representative/Technologist 小幡正規
はじめに

EtherCAT Technology Group(ETG)の来年に設立20年を迎えます。1年あたり約500社 の新規加入が続き、まもなく世界のメンバー数は7000に達します。日本のメンバー数は750社を超えました。ETGの活動は展示会出展をはじめとしてセミナーやイベントを再開し始めています。実開催では機器展示でEtherCAT製品を実際に手にとってご覧いただけたり、気軽にご質問いただけるというメリットがあります。ただし、オンラインセミナーにも利点があり、遠方の地域の方々も気軽に参加できたり、録画を公開して再視聴をしていただけるので、続けていく計画もあります。このように活動が以前のように活発になっていくなかで、新しくEtherCATに関心を持っていただいた方々からネットワークの構築方法に関するご質問を受ける機会が多くなっています。EtherCATのネットワークは簡単に動かせるようになっていますが、従来のフィールドバスやネットワーク設定が複雑な他の産業用イーサネットを経験されている人たちからEther-CATの通信でどのようにデバイスを設定しているのかを知りたいという要望が寄せられ、EtherCATのネットワーク構築に関する情報を解説することにしました。
なお、EtherCAT Technology Groupは従来のマスター/スレーブ方式の用語置き換えを進めています。これらは、MainDevice(MDevice)/SubordinateDevice(SDevice)が正式な用語になり、日本語ではそれぞれMデバイス/Sデバイスです。頭文字のM/Sが変わらないので、ESIやSIIなどの略語に変更はありません。本稿ではこれらの用語を使用しています。

ネットワークの敷設

EtherCATのネットワークの構築に必要なものはネットワークケーブルです。100Mbit/sの イーサネットなので、CAT 5以上のシールド付きイーサネットケーブル・コネクタを使ってネット ワークを敷設できます。取り回しのしやすい細く柔軟なケーブルは100mの最大ケーブル長を サポートしていない場合があるのでメーカーのケーブル仕様を参照してください。光ファイバー の通信ポートのあるS デバイスや、E t h e r C A T 対応の光メディアコンバーター経由で 100BASE-FXを使用できます。EtherCAT通信は全二重の通信経路が必要です。無線LAN は半二重であり、通信のジッタや予期せぬ遅延をともない、ハードリアルタイム通信を損なう ため使用できません。 Sデバイスは1個のINポートと1個以上のOUTポートをもっています。最も簡単なトポロジーは Sデバイスをディジーチェイン接続するライン型です。2個以上のOUTポートをもっている Sデバイスや、分岐用Sデバイス(ジャンクションボックス)を使用すると、ツリー型やスター型の トポロジーを選択できます。スイッチングハブはEtherCATネットワーク内で使用できない ことに注意してください。

ネットワークケーブルでMデバイスにSデバイスを接続すると、接続順に応じたリング状の通信経路が自動的に形成されます。Mデバイスからの通信フレームはその経路に沿って接続順にすべてのSデバイスを巡回して通信データの交換を行います。つまり、1つの通信フレーム内にす べてのSデバイスの周期通信データがあり、通信を高効率に行います。

ネットワークの敷設

Sデバイスのアドレス指定

EtherCATはイーサネットMACアドレスやIPアドレスは使用していません。また、Sデバイス のノードアドレスを設定するためのロータリースイッチ等はありません。ノードアドレスは EtherCAT MデバイスがSデバイスにネットワーク経由で初期化時に自動的に設定するので、 Sデバイス側で行う設定はありません。
Mデバイスが通信対象のSデバイスとその内部メモリアドレスを指定するしくみのことをアド レス指定といいます。EtherCATには4種類のアドレス指定方法があります。

■オートインクリメントアドレス:Sデバイスの並び順で指定する方法です。ネットワーク内のSデバイスのスキャン、通信開始時にネットワーク設定情報と実際のネットワークの照合および初期化を行うときに使用します。ネットワークの初期化時にMデバイスは照合が成功したSデバイスにノードアドレスを書き込みます。ノードアドレスは揮発性のレジスタメモリに書き込まれるので電源を切ると失われますが、再接続ごとにMデバイスが初期化処理を行います。
■固定物理アドレス:初期化で設定されたノードアドレスを使用して通信を行います。SデバイスのレジスタアクセスやMailbox通信(メッセージ通信)など非周期通信で使用します。
■ブロードキャストアドレス:ネットワーク内の全Sデバイスにアクセスします。
■論理アドレス:仮想的な32bitアドレス空間のメモリブロックのアドレスを使用して通信します。Mデバイスはネットワーク内のSデバイス群のプロセスデータを論理アドレス空間のメモリブロックにまとめます。Mデバイスは各Sデバイスに対してその内部物理アドレスと対応する論理アドレスを設定します。この設定によってSデバイスは自動的に論理アドレスで送られたメモリブロックの該当箇所だけにアクセスします。論理アドレスはプロセスデータ通信で使用します。

以上の4種類のアドレス指定の解決はすべてEtherCAT Sデバイスコントローラー(ESC; 専用通信チップ)がハードウェアで自動的に行い、ESCの物理アドレス空間にあるレジスタや通信バッファと通信フレーム間とでデータを交換します。これらのアドレス指定は設定ツールが自動的に割り当て、Mデバイスはその設定値を使用し、ユーザーはアドレス値やアドレス指定方式を意識する必要はありません。

ステートマシン

Sデバイスには4つ基本状態があり、RUNインジケーターで表示します。以下の説明でカッコ内がRUNの点灯状態です。

■INIT(消灯) : Sデバイスの電源投入後の状態です。ノードアドレスはまだ設定されていません。MデバイスはオートインクリメントアドレスでSデバイスのレジスタを設定して初期化します。
■PREOP(高速点滅) : Mailbox通信ができ、Sデバイスアプリケーションの各種パラメータ(CoEオブジェクトディクショナリなど)にアクセスできます。Mデバイスはプロセスデータ構成を設定します。
■SAFEOP(低速点滅) : プロセスデータ通信を開始しますが、出力は安全状態を保ちます。
■OP(点灯) : 入出力動作を行う正常な運転状態です。オプションの状態もあります。
■BOOT(消灯または高速点滅) : EtherCATによるファームウェアアップデートを行うとき、この状態に移行します。

Sデバイスの上位の状態遷移はMデバイスによる必要な設定の完了と遷移リクエストによって行 われ、INIT→PREOP→SAFEOP→OPへと順番に移行します。通信障害や設定ミスでエラーが発生したとき、Sデバイスはエラーの内容に応じた状態に遷移し、ERRインジケータの点灯状態でエラー内容を通知します。Mデバイスや設定ツールの機能を使ってエラーコード(ALStatus CodeやSDO Abort Code)を調べると詳しいエラー内容や原因がわかります。ETGやメーカーにサポートを依頼するときは、これらの情報をあわせてお知らせください。Sデバイスのアプリケーションのパラメータは不揮発または揮発の場合がありますが、不揮発であってもPREOPからSAFEOPの遷移時にMデバイスが発行するスタートアップコマンドにデフォルトから変更するパラメータ変更コマンド(CoEの場合SDO Downloadなど)を設定してください。Mデバイスはステートマシン管理でこれらのコマンドを送信するのでSデバイスを交換しても動作に必要なパラメータが設定されるようになります。

プロセスデータの構成

Sデバイスには一般的にCoEが実装され、そのプロセスデータは3つのレベルで構成されています。

  1. 1.各入出力変数:オブジェクトディクショナリの0x6000番台が入力変数、0x7000番台が出力変数
  2. 2.マッピング:用途や機能に応じて入出力変数をグループ化。0x1600-0x17FFが出力変数マッピング、0x1A00-0x1BFFが入力変数マッピング
  3. 3.アサインメント:マッピングから使用するグループを0 x 1 C 1 Xに割付け。X =シンクマネージャチャンネル(通常、2=出力、3=入力)

Sデバイスに実装されている機能の種類などによりプロセスデータの構成方法の自由度が異な ります。①プロセスデータが固定で変更不可、②アサインメントをユーザーが設定可能(さらに マッピングの内容を編集可能)でこれらをMデバイスから設定、③Sデバイス自身が接続されて いる機能モジュールから自動構成してそれをMデバイスがリードの3種類あります。

プロセスデータの構成

ネットワークの観点からEtherCATのセキュリティー対応について解説します。EtherCATはデバイス間の通信にIPアドレスを使用せず、上位ネットワークとEtherCATセグメントの間にコントローラーがあり、直接な接続はありません。IPアドレスを使用する産業用イーサネットでよく書かれているような上位ネットワークとデバイスセグメントが混在している場合はデバイスでのセキュリティーを考慮する必要がありますが、EtherCATは独立しているので不要です。外部からの侵入はMデバイス機能の動作するコントローラーの上位ネットワークとの接続ポートにセキュリティー対策を行うことで防げます。外部からの侵入はIPベースであり、万が一、コントローラーがIPを使ったフレームをEtherCATセグメントにルーティングしてもSデバイスは無効なプロトコルとしてそのフレームを破棄します。
また、動作中のSデバイスやジャンクションの空きポートに悪意のあるデバイスを接続しても、Mデバイスは設定で不使用のポートを管理し、クローズ状態が指示されているため、悪意のあるデバイスからアクセスができないようになっています。
したがって、上位ネットワークのポートに対してコントローラーのOS用のセキュリティー対策を行うことが重要になります。

セキュリティ

終わりに

EtherCATネットワーク設定の基礎知識を解説しましたが、詳しい技術資料「ETG.1600E t h e r C A T 敷設ガイドライン」をウェブサイトで公開しています。E T G ウェブサイト(https://www.ethercat.org/jp.htm)の[ダウンロード]ページで[テキスト検索]に「敷設」を入力してください。関連する資料としてEtherCATネットワーク診断もあります。[テキスト検索]で「診断」を入力してください。

敷設/診断技術資料

お知らせ

ETGでは2023年度のイベント開催スケジュールの調整を行っています。オンラインイベントも実施しつつ、セミナーや展示会出展を再開する予定です。イベント情報は随時ETGウェブサイトに掲載し、登録者には案内メールにてお知らせさせていただきます。EtherCATの高度な技術情報を提供する場として多くの参加者にご視聴いただいたInternational Technology Weekを再び開催します。ETG本部の技術者が技術トピックごとに解説する字幕付きセミナーとQ&Aチャットによるオンライン開催です。

セミナー

EtherCAT Technology Group (ETG)について

ETGはEtherCATの技術仕様の管理と拡張、セミナーや展示会などのプロモーションを行っています。2022年12月1日現在、ワールドワイドのメンバー数は6900社からなる世界最大のフィールドバス団体です。日本国内では760社が参加しています。

問い合わせ先
EtherCAT Technology Group日本オフィス
〒231-0062 神奈川県横浜市中区桜木町1-1-8 日石横浜ビル18F
TEL : 045-650-1610
FAX : 045-650-1613
お問い合わせ : info.jp@ethercat.org
技術サポート : support.jp@ethercat.org
ウェブサイト : www.ethercat.org/jp.htm
Twitter :@EtherCAT_Japan


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