製品ナビ×CC-Link IE TSN 特集
CC-Link IE TSN の仕様を公開

CC-Link協会
テクニカル部会 部会長
有馬 亮司
1.はじめに

CC-Link協会はこのたび、CC-Link IEの次世代を担うネットワークとして、新たな産業用オープンネットワーク「CC-Link IE TSN」の仕様を策定した。
CC-Link IEは2007年に、業界で初めて1Gbps Ethernetをベースとした産業用オープンネットワークとして登場した。「CC-Link IE Control」で工場内の基幹ネットワークとしてコントローラ間を結び、「CC-Link IE Field」でコントローラと現場の多彩な機器をつなぎ一般入出力制御をカバー。さらに「CC-Link IE Field Motion」でモーション制御、「CC-Link IE Safety」で安全制御へ、その機能・適用範囲を拡張してきた。また2016年には、小規模装置向けのフィールドネットワークとして、「CC-Link IE Field Basic」をラインナップに追加し、アジアを中心に広がりを見せている。
今回新たに仕様を策定したCC-Link IE TSNは、標準Ethernet規格を拡張した「TSN(Time Sensitive Networking)」を世界に先駆けて採用した。TSNはIEEEの国際標準化と並行して、さまざまな産業用オープンネットワークへの適用検討が進められており、従来のEthernet通信ではできなかった制御通信(リアルタイム性の確保)と情報通信(非リアルタイム通信)の混在を、時分割通信方式により可能にするものである。
CC-Link IE TSNはTSN技術を採用することで、よりオープンな産業用ネットワークとすると共に、効率的なプロトコルにより従来CC-Link IEが有する性能・機能をさらに強化した。また、開発手法の多様化により様々なタイプの機器への実装を容易にし、対応製品の充実化を図ることで、IoTを活用したスマート工場の構築を加速させることが期待される。
2.開発の背景

顧客ニーズの多様化や高度化に伴い、製造業では自動化、TCO(Total Cost of Ownership)削減や品質向上とともに、変種変量生産など新たな ものづくりを志向する動きが加速している。また、センシング技術の発展、ネットワークの高速化、クラウド・エッジコンピューティングの普及、及びAI(人工知能)の進化など、ITによってデータを活用するデータ駆動型社会が進展している。
製造業でのIoT活用に向け、欧州のIndustry 4.0や米国のIIC(Industrial Internet Consortium)、中国の智能製造、日本のConnected Industriesなど、グローバルレベルでさまざまなメガトレンドが立ち上がっている。それらに共通するのが、あらゆるものをつないでデータを最大限に活用し、自律的で最適なものづくりを目指す「スマート工場」の実現だ。
スマート工場を実現するためには、生産現場のデータをリアルタイムに収集し、そのデータをエッジコンピューティングで一次処理した上でITシステムへシームレスに送ることが重要となる。生産現場のデータを活用するには、高速・安定した制御通信やITシステムへの大容量の情報伝送が可能なネットワークが欠かせない。すなわち、生産現場における産業用ネットワークとITシステムにおけるネットワークの融合が重要である。
現在さまざまな産業用ネットワークが使用されているが、スイッチや配線などネットワークを構成する要素でも、リアルタイム性を確保するために独自仕様のものを使う必要があり、IT用ネットワークや他の産業用ネットワークとの間で回線やデバイスの共有ができないといった課題があった。また、スマート工場実現のためには、装置や設備の高性能化・高機能化による生産性向上が求められており、高度なモーション制御用ネットワークが必要とされる。特に、半導体やバッテリー製造などの業種において、要求が顕著である。
CC-Link IE TSN 詳細ページ:
https://www.cc-link.org/ja/cclink/cclinkie/cclinkie_tsn.html
3. 技術的な仕組みと他オープン技術の活用
(1)TSN技術及びプロトコル階層

CC-Link IE TSNは、OSI参照モデルの第2層に位置するTSN技術をベースに、第3層~7層のCC-Link IE TSN独自プロトコルとEthernet標準プロトコルで構成されている。
TSNは、複数の国際標準規格で構成されており、主なものに時刻同期方式を規定したIEEE802.1AS、時分割方式を規定したIEEE802.1Qbvがある。これらの規格を組み合わせることで、一定時間内での伝送を保証する定時性や異なる通信プロトコルとの混在が実現可能となる。
これに加えてTCP/IP、UDP/IPを使用するSNMP、HTTPやFTPなどのEthernet標準プロトコルが使用可能だ。これにより、ネットワークの診断に汎用のEthernet 診断ツールが使えるようになるなど、ネットワーク運用の柔軟性が高まる。
(2)通信方式

CC-Link IE TSNは、サイクリック通信の方式を刷新した。従来のCC-Link IEは、1ネットワーク中でトークン(送信権)を保有しているノードが自局の送信データを送信した後に、隣接局にトークンを譲渡するトークンパッシング方式を採用している。
これに対してCC-Link IE TSNは、時分割方式を採用した。ネットワーク内で同期している時刻を活用し、決められた時刻で、出力と入力の通信フレームを双方向に同時に送信することで、ネットワーク全体のサイクリックデータを更新する時間を短縮させることが可能だ。
この方式とTSN技術を組み合わせることで、制御通信と情報通信の混在が可能となる。
(3)プロファイル技術の拡充
CC-Link協会ではCC-Linkファミリー対応機器の立上げ、運用・保守を簡単に実現するため、CSP+(コントロール&コミュニケーションシステムプロファイル)を定義している。CC-Link IE TSNでは、CSP+にて、CANopenデバイスプロファイルとの親和性を強化した。例えば、駆動機器で国際規格であるIEC61800-7(CiA402)を使用した通信設定が可能となる。
(4)汎用のネットワーク診断機能の活用
CC-Link IE TSNネットワーク機器の診断には、IT系のネットワーク監視に広く使われるSNMP(Simple Network Management Protocol)が使用可能だ。CC-Link IE TSN構成情報、統計情報などが拡張MIB(Management Information Base)として定義されており、汎用のSNMP対応ツールでネットワーク診断が実現可能となる。
4. 特長
(1)制御通信と情報通信の融合

CC-Link IE TSNは、機器制御のサイクリック通信に高い優先度を与え、情報通信よりも優先的に帯域を割り当てることで、リアルタイムなサイクリック通信で機器を制御しながら、ITシステムと情報をやり取りするネットワーク環境を簡単に構築できる。また、情報通信との混在の特長を活用し、生産現場にUDPやTCPを用いて通信を行う機器を1つのネットワークに接続し、例えばビジョンセンサや監視カメラなどのデータを高精度で蓄積することで監視/分析/解析などに活用することも可能だ。
(2)システムの早期立ち上げや高度な予知保全合

C-Link IE TSNは、ネットワーク機器の診断容易化を実現するため、SNMPにも対応した。従来は個別のツールを必要としていた機器の状態収集を、汎用のSNMP 監視ツールにより、CC-Link IE TSNに対応した機器のみでなく、スイッチやルータなどIP通信に対応した機器もまとめて収集・分析可能となる。これによりシステム立ち上げ時や、システム運用・メンテナンス時の機器動作状態の確認にかかる工数を削減できる。
またTSNで規定された時刻同期プロトコルにより、CC-Link IE TSNに対応した機器は機器間の時刻のズレを補正し、高精度な時刻同期を行っている。マスタやスレーブがそれぞれ持つ時刻情報をマイクロ秒単位で合わせているため、例えばネットワークに異常が発生したときの動作ログ解析時に、異常に至るまでの事象を正確な時系列で追えるようになる。これによりトラブルの原因究明と早期復旧を行うことができる。
さらには、ITシステムへ生産現場の情報と正確な時刻情報を紐づけて提供することが可能となり、AIを活用したデータ解析アプリケーションによる予知保全などで、より一層の精度向上が期待できる。。
(3)駆動制御の性能を最大化してタクトタイム短縮

従来のネットワークで運用していたシステム規模と比較して、CC-Link IE TSNで運用するシステムでは、センサを追加したり、ライン増設などで制御に必要なサーボアンプの軸数が増えても、全体のタクトタイムへの影響を最小限に抑えられるどころか、従来のネットワークで運用していたシステムよりもタクトタイム短縮を図ることも可能だ。
CC-Link IE TSNでは、性能が異なる機器をそれぞれの通信周期で組み合わせて使用することが可能になる。従来、同一のマスタ局に接続する機器は、ネットワーク全体で1つのサイクリック通信周期(リンクスキャン)で運用する必要があった。CC-Link IE TSNでは、同一ネットワーク内で複数の通信周期で運用することができる。
これにより、サーボアンプのような高性能の通信周期を必要とする機器の性能を維持したまま、リモートI/Oなど高速な通信周期を必要としない機器をつなぐなど、それぞれの機器の特性に合わせ通信周期を最適化することが可能になり、ネットワーク上のスレーブ機器が持つポテンシャルを最大限に活用し、システム全体の生産性を高めることができる。
(4)対応製品の充実化

従来のCC-Link IEは、1Gbpsの広帯域を有効に使用するため、機器開発ベンダは、マスタ機器とスレーブ機器いずれも専用ASICかFPGAを用いて対応製品を開発(ハードウェア実装)する必要があった。
CC-Link IE TSNは、ハードウェア実装のみならず、ソフトウェアでも実装可能とする。従来通り高速な制御を実現するための専用ASICやFPGAで実装する方法に加え、汎用のEthernetチップにソフトウェアのプロトコルスタックで実装する方法が、マスタ機器、スレーブ機器ともに適用できる。通信速度も1Gbpsに加えて、100Mbpsにも対応できる。
ハードウェア実装だけでなくソフトウェア実装という選択肢と、通信速度が100Mbpsおよび1Gbpsという選択肢が加わったことで、機器開発ベンダは最適な開発手法でCC-Link IE TSN対応機器を開発できるようになる。このことは対応機器の充実化という形でユーザにも効果をもたらす。
5. ユースケース
(1)制御通信と情報通信の融合によるスマート工場化

リアルタイム性を確保した制御通信を実施しながら、他オープンネットワークの通信やITシステムとの情報通信を同一ネットワークで融合したスマート工場化を実現。
(2)汎用IP通信機器や高度な駆動制御を活用した装置

現行システムでは、アライメント調整時にはいったんサーボモータを止めてからビジョンで正確なワーク位置を計測していたところを、CC-Link IE TSN対応のサーボアンプとビジョンセンサを使用することにより時刻同期が可能となり、サーボモータがワークを移動させている最中でもビジョンセンサが正確なワークの位置を把握することができる。このため大幅なタクトタイムアップが期待できる。
また、ビジョンセンサからの大容量の画像データはIP通信にて転送することにより、サーボ制御性能に影響を与えずに省配線の1ネットワークシステムが構築できる。
5. 今後の展開
今回仕様策定したCC-Link IE TSNでは、Ethernet上で時分割通信するTSNの技術を採用したことで、Ethernet機器の活用を容易にするとともに、高速なサイクリック通信を実現するプロトコルに一新したことで、FA分野における一般制御及びモーション制御の性能・機能を大幅に向上させた。
問い合わせ先
- CC-Link協会
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- FAX : 052-916-8655
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