1 スマート工場が求められる背景
顧客ニーズの多様化や高度化に伴い、製造業では自動化、TCO(Total Cost of Ownership)削減や品質向上とともに、変種変量生産など新たなものづくりを志向する動きが加速してい ます。また、センシング技術の発展、ネットワークの高速化、クラウド・エッジコンピューティングの普及、及びA(I 人工知能)の進化など、ITによってデータを活用するデータ駆動型社会が進展しています。そのような流れの中で、あらゆるものをつないでデータを最大限に活用し、自律的で最適なものづくりを目指す「スマート工場」の実現が強く求められています。世界でも、欧州のIndustry 4.0や米国のIIC(Industrial Internet Consortium)、中国の智能製造、日本のConnected Industriesなど、製造業でのIoT活用に向けさまざまなメガトレンドが立ち上がっています。
スマート工場を実現するためには、生産現場のデータをリアルタイムに収集し、そのデータをエッジコンピューティングで一次処理した上でITシステムへシームレスに送ることが重要です。 生産現場のデータを活用するには、高速・安定した制御通信やITシステムへの大容量の情報伝送が可能なネットワークが求められます。すなわち、生産現場における産業用ネットワークとITシステムにおけるネットワークの融合が必要不可欠です。また、生産効率の向上に向けた高速・高性能な制御の実現も急務となります。
そこでCLPAは、これらの要求に応えるため「CC-Link IE TSN」を世に送り出しました。従来のCC-Link IEの特長を継承しつつ、時分割でリアルタイム性を実現するTSN技術を採用することにより、同一幹線上で複数の異なるネットワークの混在が可能となります。さらに、効率的なプロトコルにより、高速・高精度なモーション制御を実現することができます。これによりCCLink IE TSNは、上位のITシステムから生産現場のFAシステムの階層を意識することなく、シームレスに連携し、製造業におけるさまざまなアプリケーションへの活用拡大が可能です。
2 CC-Link IE TSN対応製品の拡がり
2018年11月の仕様公開以降、CC-Link IE TSN対応製品の開発および市場投入が進み、実際にさまざまな生産現場へ導入され始めています。本記事はCC-Link IE TSN対応のソフトモーションとスイッチングハブをご紹介します。
■適用事例:半導体(ボンディング)

(1)CC-Link IE TSN対応ソフトモーション

■ソフトモーションとは
「ソフトモーション」とは、パソコンのマルチコアCPUの分散型超高速演算能力を最大限に活かし、NCポードや専用コントローラの代わりにWindowsパソコンにインストールしたソフトウェアのみによって様々な製造装置や産業用ロボットなど高速多軸同期モーション制御を実現するテクノロジーです。また、パソコンのLANポートを用い、専用ASICなしでソフトウェアだけで実時間フィールドネットワーク通信を実現する「ソフトマスタ」技術も含まれます。Windowsのリアルタイム拡張技術を活用することで、Windowsパソコンでもハードリアルタイム性を確保できます。パソコンCPUのコアをソフトモーションの動作に割り振ることで、Windows側の動作状況に影響されることなく高速で安定したリアルタイム制御が可能です。近年のパソコンCPUの高性能化により、ソフトモーション製品の性能も以前と比べ格段に向上してきています。
■WMX3概要
WMX3は、ソフトサーボシステムズ社が長年開発してきたソフトモーション技術と、各種ネットワーク向けソフトマスタが統合されたソフトモーションコントローラ製品です。パソコンCPUの超高速演算能力を最大限に活かし、従来のモーションコントローラ製品では不可能な制御性能やフィールドネットワーク通信機能を実現しています。WMX3は高度で複雑な多軸制御のニーズへ応える多種多様な制御機能を豊富に搭載し、最大128軸のサーボと6万点以上のI/Oの完全同期・高速制御を実現します。またパソコン1台で製造装置内のサーボの電流や各種センサーの実時間データを収集することができるので、製造装置の精度の高い予知保全や予防保全、事後保全にも活用できます。近年の工場のスマート化ニーズの高まりとともに、WMX3は世界各国の半導体製造装置や各種製造装置に採用されています。
WMX3の最新版では、ソフトサーボシステムズ社が世界に先駆けて開発したCC-Link IE TSNソフトマスタ(Class B対応)が搭載されています。通信機能だけでなく、CC-Link IETSNネットワーク管理ツールであるCC-Link IE TSN Configuratorも開発され、ネットワーク構成の設定や通信状態の確認も可能となり、ユーザへの便宜性が高まりました。上位ITシステムと同一ネットワークで融合できるCC-Link IE TSNの採用により、WMX3はスマート工場の実現に大きく貢献できると期待されています。

■メリット
1.実現できるIoTソリューション
IoT時代では、製造現場からビックデータの価値を高めるためにエッジコンピューティングとフィールドとの高速な結合が重要となっています。本製品をエッジコンピュータである産業用パソコン上で稼働させることで、上位ITネットワークとフィールドネットワークを実時間でつなげるだけでなく、SCADAやAI等、IoTに必要なすべてのソフトウェアと装置制御を完全にリアルタイムで結合する事が可能です。
2.オープンイノベーションの推進
IoT時代の到来とともに、中国等の新興国の技術力が飛躍的に向上し、日本を始めとする先進国の競争優位性が保たれなくなってきています。ものづくり分野でも、各種製造装置メーカやFA機器メーカは、従来のような単独での技術革新では日々激化する競争環境についていけなくなっています。本製品は、ソフトモーションという究極なオープンプラットホームを提供し、製造装置メーカやFA機器メーカが短期間、低コストで市場のニーズにあった最先端モーションコントロールソリューションを 開発することを可能にしています。
(2)CC-Link IE TSN対応スイッチングハブ

■CC-Link IE TSN対応スイッチングハブとは
CC-Link IE TSN対応スイッチングハブとは、CC-Link協会において、対応機器として認められたスイッチンングハブで、他の装置と同じく、Class A、ClassBという認証Classがあります。通常のハブと異なり、CC-Link協会でテストを実施し、各認証Classに応じた性能があることが証明されています。
特にCC-Link IE TSN Class Bにおいては10μ秒未満の時刻のズレも起きないシステムの構築が可能ですが、中継装置となるスイッチングハブも対応が必要です。また、適したタイムスロットごとに、適したパケットを送出することも中継装置となるClass B対応スイッチングハブが求められます。

■TSN-G5008 Series/TSN-G5004 Series概要
産業用ネットワーク機器メーカーのMoxaからはCC-Link IE TSN ClassB認証を取得したスイッチングハブ、TSN-G5008/TSN-G5004シリーズがリリースされています。産業現場の基幹ネットワークでの利用が想定される8port製品と、装置内でも活用しやすいコンパクトな4port製品がラインナップされています。CC-Link IE TSN ClassBシステムにおいて求められるTSN機能、性能だけではなく、現場で使いやすい設定画面も意識されている製品です。また、MoxaはIoT化の今後の課題であるセキュリティ対策として、IEC62443-4-1に準拠し、製品を開発している点も特徴です。
■構成例とメリット
CC-Link IE TSN対応スイッチングハブを利用することで、多くのメリットが生まれます。CC-Link IE TSN対応スイッチングハブを利用しない場合同一ネットワーク上に、CC-Link IETSN以外のネットワーク通信機器を混在させる場合の制限が大幅に緩和されます。また、スター型トポロジでシステム構築ができるため、ケーブル配線なども最小限に抑えながら、機器の追加、変更、障害時の対応なども容易になります。CC-Link IE TSNで提供される、高速、正確な通信のメリットを享受しながらも常に改善が求められる現場の生産設備、装置にCC-Link IE TSN対応スイッチングハブは柔軟性をもたらすことになるでしょう。

3 CLPAが目指す「Connected Industries」の世界

CLPAはTSN技術を適用したCC-Link IE TSNにより、「Connected Industries」の世界を目指しています。CC-Link IE TSNは正確なタイムスタンプ情報と高度な分析、ネットワークの統合、高度なモーション制御の実現、上位のITシステムから生産現場のFAシステムまでシームレスに連携することが可能になります。生産現場におけるFAシステムの階層においては、無線化に対する市場要望やセキュリティに対する市場要望の声が強くなってきています。CLPAでは無線やセキュリティに対する各ガイドラインおよび認証試験仕様を策定中で、製造現場における無線技術を適用した新しい工場の在り方を提案していきます。さらに、FAとITの融合によるサイバー攻撃等のリスクに対応するためのセキュリティ技術の活用により安心してご使用頂けるセキュリティ環境の構築も提案していきます。
問い合わせ先
- CC-Link協会
- 〒462-0825
愛知県名古屋市北区大曽根3-15-58 大曽根フロントビル6階 - TEL : 052-919-1588
- FAX : 052-916-8655
- お問い合わせ : https://www.cc-link.org/jp/contact/index.html
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