IO-Link
現場のセンサ、アクチュエータ までデジタル通信を通す
Representative/Technologist 元吉 伸一
工場の産業用オートメーションにデジタル通信技術が導入され、すでに25年以上となり、工場現場では各種フィールドバス、産業用Ethernet等を使用して、多くのオートメーション機器間で、自由にデータと情報のやり取りができるようになりつつあります。
ただし、オートメーションをさらに進化させるためには、工場のすべての機器をデジタル通信でつなげて、情報を共有する必要があるのですが、現実にはまだそうなってはいません。
特に工場現場に一番近いセンサ(測定器)、アクチュエータ(操作器)は(一般的に)非常に安いコストで供給されることが求められており、Ethernetなどを使ったデジタル通信機能を搭載すると機器の価格が高くなってしまいます。そのため、工場で多量に使用されているにもかかわらず、センサ・アクチュエー タまでにはデジタル通信が届いていないことが多いわけです。
IO-Linkはこの課題を解決するため、現場の(比較的価格の安い)機器もデジタルネットワークに接続し、測定値、操作値だけでなく、パラメータデータ、診断データ、そしてイベントの通信を可能にする技術です。IO-Linkのコンセプトはすでにマーケットで受け入れられ、2020年末までに累計2,100万台の機器が全世界で納入されました。このグラフで分かるように、2019年の出荷台数は460万台でしたが、2020年には500万台に達しており、コロナウイルスの世界的な感染という逆風にもかかわらず、10%の伸びになっていることにご注目ください(図1参照)。
IO-Linkシステムではマスタのポートとデバイスを3本の導線(シールド不要)を使って1対1に接続しま す。多くの場合、IO-LinkマスタはリモートIOまたは制御機器(例;PLC)の入出力カードとなっています。マ スタは複数のポートを持っており、複数のIO-Linkデバイスと接続します(図2参照)。
IO-LinkマスタはIO-Linkデバイスと上位の制御機器との間に位置して、データのやり取りを仲介します。
IO-LinkマスタがリモートIOの場合、リモートIOの上位、つまり制御機器とリモートIO間はフィールドバス、または産業用Ethernetでつながります。現在、IO-Linkマスタでサポートされているフィールドバス、産業用EthernetとしてPROFIBUS、PROFINET、Interbus、EtherCAT、Powerlink、EtherNet/IP、
Modbus TCP、SERCOS III、CC-Link、CC-Link/IE、DeviceNet、AS-Interface,、serial、USBなど多彩なプロトコルが用意されています。この多様な接続性がIO-Linkの魅力の1つです。つまり、IO-Linkは既存のフィールドバス、産業用Ethernetと競合しないうえ、どのネットワークとも接続できるオープン性を持っています。
また、デバイスの種類も エンコーダ、圧力センサ、レベルセンサ、温度センサ、近接センサ、超音波センサ、ビジョンセンサ、流量センサ、距離計、RFIDシステム、低電圧スイッチギア、真空機器、バルブ、回転機、信号灯など17,000種類以上の機器がすでにマーケットで販売されています(写真1参照)。
(1)Point-to-Point接続:マスタの各ポートが1個のIO-Linkデバイス(現場機器)とつながり、中間に機器は接続されません。つまり、マスタとデバイスのPoint-to-Point接続であり、バス接続ではありません。
(2) 信号線は3線式、電源供給(24V)も可能です。
(3) ケーブル最大長:20m
(4) インターフェース部はM12、M8コネクタ、または端子接続を使うのが一般的です。
(5) 通信速度:4.8kbps、38.4kbps、230.4kbpsの3種類
(6) データ更新周期:38.4kbpsの通信速度で2.3msec程度ごとにデータ更新
(7) IO-Linkでは以下の4種類のタイプのデータを通信できます。
現場機器の測定値と操作値であり、周期的に通信されます。最大長は32バイト。
〈2〉バリューステータス
バリューステータスとはプロセスデータの有効/無効を示す値であり、プロセスデータと共に通信されます。
〈3〉デバイスデータ
デバイスデータとはパラメータ、機器の識別データ、そして診断データとなります。これらのデータはマスタからのリクエストにより、非周期で通信されます。
〈4〉イベント
アラーム等のイベントがデバイスで発生した場合、デバイスはマスタにこのイベントを読むようリクエストすることができます。
(8)IODDについて
IODD(IO Device Description)はIO-Linkデバイスの仕様をXML形式で記述するファイルです。IODDは各IO-Linkデバイスごとにベンダーから提供されます。IO-Linkマスタに接続されるIO-Linkデバイスの設定にはIODDを(基本的に)使用します。IODDは一般に公開されており、IODDFinder「https://ioddfinder.io-link.com」からダウンロードできます。エンジニアリングツールの中には、IODDFinderから直接IODDをダウンロードできる機能を持つツールも増えており、IODDFinderへのアクセスは月間60万回を越しています。
(1)IO-Linkを使うと、今までアクセスできなかった、センサ・アクチュエータ内のデバイスデータも監視・設定できるようになります。たとえば、機器管理パラメータを使って、実際に稼働しているセンサ・アクチュエータの機器情報(例:ベンダー名、モデル名、シリアル番号、バージョン等)を機器自身から読み取ることができます。工場の中には数千台、数万台のセンサ・アクチュエータが存在しますので、正確な機器情報を持つことは、ラインの安定稼働に欠かせません。また、診断用のパラメータを収集することで、予知保全に役立てることもできます。
(2)今までセンサ、アクチュエータの接続は、2線式、3線式、無電圧、有電圧など、機器によりさまざまでした。IO-Linkではハードの接続仕様を統一できます。つまり、ケーブル接続の間違いがなくなります。また、エンジニアリングで指定した設定と異なるIO-Linkのデバイスをマスタに接続するとエラーを出すこともできますので、間違った機器をつなぐことがなくなります。
(3)センサ、アクチュエータをそれぞれ1個ずつ制御機器まで配線するより、IO-Linkとフィールドバスまたは産業用Ethernetを組み合わせて接続した方が、配線工数を削減できます。配線を削減するもう一つの方法として、IO-Linkデバイスを従来の(デジタル通信技術をサポートしない)オンオフデバイスを接続するマルチプレクサとして使用するアイデアがあります。たとえば、IO-Linkデバイスに従来のオンオフデバイスを8個接続し、IO-LinkマスタとIO-Linkで通信を行うなら、IO-Linkマスタの1ポートあたり、つまり3本の配線で、8個分のセンサ、アクチュエータとの信号がカバーできることになります。
(4)エンジニアリングレスで周期データの通信できることも、IO-Linkを採用する大きなメリットと言えます。従来の産業用通信では、データ通信を実現するために、ソフトウェアでエンジニアリングをする必要がありました。しかし、IO-Linkではハード結線すれば、IO-LinkデバイスとIO-Linkマスタは自動的にデータ通信を開始します。
IO-Linkをより使いやすくするために、IO-Link Wireless(無線)とIO-Link Safety(安全)の仕様が最近公開されました。
(1)IO-Link Wirelessは、有線接続では難しいアプリケーション(たとえば、可動体、ロボットなど)にIO-Linkの応用範 囲を広げることが期待されています。IO-Link Wirelessは、2.4GHz ISMバンドを使い、周波数ホッピング方式を採用することでほかの無線との干渉を少なくしています。1つの無線チャンネルで8台の無線デバイスと通信でき、無線マスタは最大5つの無線チャンネルを実装できます。また、1つのセル内には最大3台のマスタが設置可能です。データ交換の周期は5msec以下となります。
(2)IO-Link SafetyはBlack channel技術を使って、安全システムの通信を構築する技術です。IO-Linkだけで安全通信を行うこともできますが、すでに多くの産業用ネットワーク団体から発表されている安全通信と組み合わせて使うことができます。IO-Link機器をつかうため、安全システムでもコスト削減、容易なエンジニアリングが実現できます。
(3)IO-Link機器のデータを工場の上位システムと直接接続するためにIO-LinkのOPC-UA接続仕様の検討も進んでいます。
IO-Linkの日本での普及をサポートするために、IO-Linkコミュニティ ジャパンが2017年4月に発足しました。2020年3 月現在、33社が参加しており、
(1) 早稲田大学理工学研究所にて、IO-Link体験コースと技術コースを開催
(2) IO-Linkの概要説明とベンダデモを行うIO-Link紹介セミナの開催 (毎年2回程度開催)
(3) HPの開設
(4) カタログ、技術資料の公開
(5) 展示会への参加
など、積極的に活動を進めています。
繰り返しますが、次世代工場では、デジタル技術を今よりもっと活用するために、工場内のすべての機器がデジタル通信で つながることが求められます。IO-Linkは現場に最も近いセンサ・アクチュエータのデータを取り込み、フィールドバス、産業 用Ethernetと共にスマート工場を構築する技術として、ご注目いただきたいと思います。
連絡先
IO-Linkコミュニティ ジャパン
〒141-0022 東京都品川区東五反田3-1-6 ウエストワールドビル4F 日本プロフィバス協会内
電話/Fax:03-6450-3739
E-mail: info@io-link.jp URL: www.io-link.jp