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製品ナビ×EtherCAT特集
2022年7月4日 UPDATE

EtherCATが使いやすくなる機能をご紹介
~スレーブ設定情報SCIと診断インタフェース~

EtherCAT Technology Group 日本オフィス
Representative/Technologist 小幡正規
はじめに

EtherCATは、従来のフィールドバスのノードアドレススイッチやボーレートスイッチ、一般的な 産業用イーサネットのIPアドレスなどのスレーブ側での設定を限りなく行うことなく、電源とネッ トワークケーブルを接続すれば動くようにするという設計思想で規格が作られています。Ether- CAT仕様ではノードアドレスはマスターの設定で決められ、マスターはデバイスを起動するとき にデバイスの接続順と識別情報から通信でデバイスにノードアドレスを付与します。周期通信す るプロセスデータの構成や、動作パラメーターなども同様に起動時にマスターが各デバイスに これらの情報をダウンロードするので、万が一のデバイスの故障でも保守部品と交換するだけ です。
一方、このマスター側の設定を作成する作業や障害発生時の診断はマスターメーカーの設定 ツールを使いこなしたり、ある程度のEtherCAT通信の知識が必要でした。近年、ETGはこの改 善のためスレーブ設定情報(Slave Configuration Information: SCI)や、マスターメーカー に依存しない診断インタフェースを仕様化しています。これらの機能は両者ともにEtherCAT を利用するユーザーの利便性を高める機能であり、EtherCATをさらに簡単に便利に使用でき るように、EtherCAT設定ツールやマスターへの実装が望まれるものになります。

スレーブ設定情報(SCI)

EtherCATスレーブの設定には、EtherCATスレーブ情報(ESI)ファイルまたはスレーブ内のス レーブ情報インタフェース(SII)を使用するのが一般的です。ESIにはスレーブがサポートするプロ セスデータ構成、パラメータセットのCoEオブジェクトディクショナリ、スロット&モジュールなどス レーブの機能設定のためのあらゆる情報が記述されています。EtherCATネットワークの設定を 行うときには、これらの情報から使用したい構成の選択やCoEオブジェクトのパラメーター設定を 行う必要があります(図1)。
しかし、高機能なデバイスや多様なモジュールをサポートするような場合には、選択したいデバイ ス機能の動作について深い知識が必要だったり、適切なパラメーター設定値をデバイスの技術ド キュメントから調べなければならなかったりすることがあります。それには、モジュールやプロセス データをどのような組み合わせで選択するのか、そのときの適切なCoEオブジェクトの設定値は どのようにすべきかなどがあります。制御ネットワークや保守のエンジニアにとっては、設定ツール でどのようにすればそれらを変更できるのかはわかっていても、どのような設定がそのデバイスの 機能に対して妥当であるのかは難しいかもしれません。
SCIは、このような特定のデバイスに依存した設定のためだけの知識を必要とせずに、簡単にデバ イス設定を行うことを目的として開発されました。SCIはESIファイルをベースに特定目的の構成 や設定が記述されたファイルとして提供され、ESIファイルの代わりにSCIを使用することで設定 が完了します(図2)。

高機能スレーブ設定

SCIファイルは、誰でも作成できます。ESIファイルをXMLエディタで編集することも可能ですが、 一般的にはESIファイルを用いて設定ツール上で特定の用途向けの設定変更を行い、SCIファイ ルにエクスポートします。デバイスメーカー、システムインテグレーター、装置開発チームの EtherCATエキスパートがESIファイルから作成し、提供が可能です。今までの1台のデバイスに 1個のESIファイルに加え、機能設定別に複数のSCIファイルを提供できるようになります。
SCIファイルは特定の機能設定が完了した状態ですので、これ以上の設定変更は行えません。す べての設定項目は特定用途向けに固定されています。
SCIが利用できるかは、EtherCATのネットワーク設定ツールがSCIのインポート・エクスポートに 対応し、ESIの代わりにSCIをネットワーク設定に使用できるかどうかというだけです。デフォルト のESIからの設定変更をSCIで簡単化できるだけなので、既存のEtherCATマスターやデバイス はそのままです。デバイスメーカーはユーザーの利便性を向上するためにSCIファイルを提供で きます。SCIを活用していただき、EtherCATが簡単に便利に活用できる環境が整うようETGはこ の仕様普及を推進していきます。

メーカー非依存マスター診断インタフェース

EtherCATのネットワーク診断は、動作中の周期プロセスデータ通信を処理したスレーブ数を表 すカウンター値(ワーキングカウンター)で継続的に行い、デバイスの処理を完了をチェックしてい ます。一部で障害が発生し、ワーキングカウンター値が不正値となったときにマスターは障害原因 の診断を開始します。また、ハードウェア的な障害の診断には通信ポートごとの障害発生のカウン ター値を元に通信障害の発生箇所を特定します。アプリケーション側の障害診断としては、デバイ スの状態、エラーコード、CoEオブジェクトディクショナリ内の診断履歴オブジェクトなどを活用し て障害原因を把握できます。
診断機能はEtherCATマスターが標準的に備え、動作ログや設定ツールの診断機能で提供して いるものですが、使用するマスターやツールにより診断情報を参照するための画面や手順が異な ります。異なるマスターが混在した環境の診断性の向上のため、マスターメーカーに依存しない診 断インタフェース機能が仕様化されています。共通の診断クライアントで様々なマスター下の EtherCATネットワークの動作状況を診断できます(図3)。

メーカー非依存マスター診断インターフェース

スレーブ側の変更はなく、従来からあったマスター内のパラメーター一覧(マスターオブジェクト ディクショナリー)と通信機能(メールボックスゲートウェイ)を組み合わせ、スレーブの診断情報を 保持するエリア構成を新しく定義しています。つまり、既存のマスターでも簡単に少ないリソース で機能追加ができるようになっているので、ソフトウェアアップデートによる拡張が可能です。 EtherCAT Technology Groupはマスターにこの診断インタフェースの実装を推奨していま す。EtherCATネットワーク構築の際にはこの機能に対応もしくは対応予定のマスターの選定を おすすめします。

終わりに

EtherCAT Technology GroupはこれからもEtherCATの使いやすさ向上のための機能を充 実させていきます。今回紹介したスレーブ設定情報(SCI)は、より簡単にEtherCATデバイスを設 定できるようにするものです。また、運用時の障害検出をマスターメーカーに依存しない1つの ツールで実現するマスター非依存診断インタフェースの拡張も行い、普及が進んでいます。得ら れた診断情報の理解と障害や発生箇所の特定に役立つ技術資料「ユーザー向けEtherCAT診 断」をウェブサイトで公開しています。ETGウェブサイト(https://www.ethercat.org/jp.htm)の [ダウンロード]ページで[テキスト検索]に「診断」を入力してください。関連する資料として EtherCATネットワークの敷設に関するガイドラインもあります。[テキスト検索]で「敷設」を入力 してください。

EthercatTechnology Group

お知らせ

■ETGメンバー情報
EtherCATは最高速かつハードリアルタイムな産業用イーサネットとして、ますます採用が拡大 し続けています。2022年5月10日時点のメンバー数は6705社となり、日本のメンバー数も 730を超えました。EtherCATの魅力は、高速性とリアルタイム性、高精度時刻同期機能、セン サー・アクチュエーターをはじめI/Oとモーションさらには セーフティデバイスの混在など性能 的な側面だけではありません。ノードアドレスやスレーブの設定データはEtherCAT設定ツール およびEtherCATマスターが集中管理することによって、エンドユーザーの設定作業を極限まで 簡略化し、故障時のデバイス交換も電源とネットワーク接続だけで行えるようなユーザービリティ を提供しています。スレーブに内蔵されているEtherCATスレーブコントローラー(ESC)は EtherCATネットワークの相互接続性を保証し、高度な診断機能を支援します。EtherCATマス ターはESC内の状態データをモニタリングしてネットワークの障害箇所を特定でき、迅速な障害 復旧を行えます。つまり、EtherCATはフィールドバスとして最も高性能、かつ使いやすい産業用 イーサネットであるといえます。

ワールドワイドのメンバーシップ推移


■ETGメンバーシップの3つの利点
技術情報の入手:ホームページのメンバーエリア内にある、仕様書、実装ガイドライン、開発者 フォーラム、EtherCATナレッジベースなど最新情報が入手可能。
開発のサポート:EtherCATデバイスを開発に必要なVendorID、コンフォーマンステストツール にアクセス可能となります。 
製品の販促:ETG日本オフィスが主催するセミナーや展示会に協賛社としてご参加いただけます。 入会費用は無料です。EtherCATメンバー向けの技術サポートセミナー・イベントも近日開催を予 定しています。この機会にぜひ入会のご検討をお願いします。


■イベント情報
コロナ禍においてオンラインで開催してきたセミナーやイベントも段階的に会場での開催に移行 しています。ETG日本オフィスではこれまで様々なセミナーやイベントを日本各地で開催してき ました。オンラインでは得がたい対面での個別の情報交換を望む声が多く寄せられたことを受 け、今年後半からは以下のとおり会場開催を再開できるように準備を進めています。参加費用は 無料です。開催の最新情報はETG日本オフィスのホームページをご確認ください。

■開発サポートセミナー
*対象:ETGメンバー
EtherCAT対応製品の開発に必要なEtherCAT仕様書の理解を深めることを目的としたセミ ナーです。EtherCATデバイス開発を検討されている方、開発担当の技術者の方に最適な内容で す。毎回、開発サポートする製品の紹介や、コンフォーマンステストの概要についても併せて ご紹介しています。出展各社のテーブルトップデモも併設しています。

■採用セミナー
EtherCATを初めて学ぶ方に最適な入門編のセミナーです。EtherCATの基本技術と特徴について、アプリケーション事例を交えてわかりやすく紹介します。
EtherCAT導入を検討するユーザー様や装置メーカー様にとって興味深い内容となっております。EtherCATの最新情報を入手してください。出展各社のテーブルトップデモも併設しています。

セミナー

■EtherCAT技術アップデート ・ Safety over EtherCATセミナー
*対象:ETGメンバー EtherCAT技術アップデートでは、EtherCATテクニカルワーキンググループの活動報告と秋季の会合で議論されたEtherCAT仕様 書の追加・最新技術情報をご報告します。
そして後半のSafety over EtherCATセミナーでは、FSoE protocolを用いた機能安全の通信をメインテーマとして、機能安全の 装置アーキテクチャに関する要件を紹介します。FSoEの重要事項と技術的な特徴とともに実装についても解説します。


■Plug Fest
*対象:ETGメンバー EtherCAT マスタ・スレーブメーカー様にご参加いただき、実際の接続環境下で相互接続・運用上の課題を見つけ、改善策を検討する 機会です。ETG本部からのヒントやコンフォーマンステストセンターとの検証を行い、問題点を解決に向けてのヒントを得ることができ ます。メーカー各社様単独では得がたい他社機器との接続テストをぜひご体験ください。


セミナー

ETGイベントスケジュール(予定)

イベント情報

ETGはIIFESに出展します

ETGブース(西ホール No1-08)では、日本で入手・サポート可能なEtherCAT対応製品を一堂にご紹介します。今回は20社を超えるデ バイスメーカー様から最新製品が展示されますのでぜひご覧ください。また、オンライン出展者セミナーでは、EtherCATの基本技術を 国内における多様な採用事例を交えて解説します。この機会にETG/EtherCATの最新情報を入手してください。

問い合わせ先
EtherCAT Technology Group日本オフィス
〒231-0062 神奈川県横浜市中区桜木町1-1-8 日石横浜ビル18F
TEL : 045-650-1610
FAX : 045-650-1613
お問い合わせ : info.jp@ethercat.org
技術サポート : support.jp@ethercat.org
ウェブサイト : www.ethercat.org/jp.htm
Twitter :@EtherCAT_Japan


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