アジアで普及が目覚ましいEtherCAT
日本オフィス代表 小幡正規
EtherCATは実績のある、技術仕様の安定した産業イーサネットとし て安心して長く使える技術です。EtherCATは基本仕様に変更を加 えず、互換性を考慮した機能拡張をすることで発展してきました。も ちろん、EtherCATの一番の特徴は、高速性とハードリアルタイム性 です。MainデバイスがSubデバイスセグメントに送信するフレーム を集約し、100Mbit/sの通信帯域を周期プロセスデータに効率的 に使用できます。また、全世界で広く普及し低コストで入手可能であ ることはいうまでもありません。
2025年4月の時点で8200社がETGのメンバーシップを有し、全 世界の76カ国をカバーしています。メンバー増加数は2014年以 来、常に400社以上をキープしています。
EtherCATはドイツ発の技術であり、EtherCAT Technology Group 設立当初は欧州が中心でした。しかし、現在はアジアが欧州全体のメ ンバー数を逆転しました。これは、日本、中国、韓国における目覚まし いEtherCATの普及を意味しています。特にこのエリアでは自動車 産業、半導体製造装置、工作機械、産業用ロボットの分野において EtherCATは大きく広がりを見せていて、EtherCAT対応のモー ションデバイスや半導体製造装置向けデバイス、センサー系デバイス を供給するメンバーが増加しています。デバイスメーカーだけでな く、デバイス実装サポートや装置インテグレーション、さらには装置 メーカーによるデバイス内製もメンバーシップの増加につながってい ます。日本は、毎週のように新メンバーが増え、840社以上のメン バーがいます。アジアでは中国についで2番目に大きいEtherCAT コミュニティーです。 北米はコンスタントに14%前後を維持しています。これはETGの全 世界の成長と同じ増加率であるということです。北米でこの数字は 少ないと思われることもありますが、メンバー数は1000社以上で あり北米で最大の産業イーサネット組織であることは言うまでもあり ません。
■EtherCAT GとTSN
EtherCAT Gの技術発表は2019年に行われましたが、開発現場で の作業が困難な時期や、部品供給不足の開発体制への影響などの課 題がありました。現在、開発は順調であり仕様リリース準備の最後のフェーズとなっています。EtherCAT Gに多くの期待をもたれています が、誤解されているところもあります。EtherCATは100Mbit/sがメ インストリームです。スイッチングハブベースの産業用イーサネットが 1Gbit/sとなったとしても通信帯域の使用効率に勝るEtherCATの 性能を上回ることはありません。EtherCAT Gの用途は、大容量周期プ ロセスデータによる帯域飽和と多数のデバイスによる伝送遅延の改善 です。EtherCATブランチコントローラー(EBC)を使用し、幹線のGb 化とEtherCATセグメント分割を行います。EtherCATのユーザーは 既存デバイスはそのままで大規模ネットワークの性能向上を行うこと が可能になります。ごく一部の1デバイスで帯域を大きく消費するデバ イスだけがEtherCAT G化の対象です。Subデバイスメーカーは、特に EtherCAT Gへの対応を行う必要はありません。大規模ネットワークを 処理できる高性能なコントローラーを対象とするMainデバイスメー カーはEtherCAT Gに対応し、EBCをサポートすることになります。 また、TSNは帯域の使用方法を制限してリアルタイム通信を優先させ ることが目的であるため、高速化には寄与しません。EtherCATの TSNはMainデバイスとEtherCATセグメント間の往復ストリーム (TSNの通信チャネル)を定義します。余った帯域に別のストリームで複 数のEtherCATセグメントと接続して1つの通信ポートを仮想的に複 数のMainデバイスポートのように使用したり、コントローラー間通信 に活用できます。 EtherCAT GやTSN対応はIEC 61158の新TypeによってEtherCAT Networkingという新しい規格で制定され、既存のEtherCAT仕様に は変更はありません。
■動的プロセスデータチャネル(DPC)
従来、EtherCAT通信ではSubデバイスの起動時にMainデバイスが 周期プロセスデータを静的に構成し、運転中に追加する機能はありま せんでした。本機能は、運転を継続しながら、動的に追加の周期プロセ スデータを開始・停止します。この機能には、MainデバイスとSubデバ イスの両方の機能サポートが必要です。特にS u bデバイス側は EtherCAT SubDevice Controllerに未使用のSyncManager(通 信バッファ管理機能)とFMMU(アドレス変換機能)があることが要件に なります。装置の開発時に特定のSubデバイスの機能チューニングを 行うのに、実際に装置を運転させながら、周期プロセスデータ通信に対 してチューニングに必要だが運転には不要なパラメータを追加するの に使用できます。 この動的な周期プロセスデータ通信の追加設定や開始が装置の運転 に影響を与えないように、警告通知が新しく追加されています。DPC の設定は通常のプロセスデータ設定に似ていますが、その設定が不正 なときはエラーではなく、Mainデバイスに警告を通知し、静的な周期 プロセスデータに関する通常運転を継続するための機能です。
ETGは、2023年に初めて2022年までの累計出荷ノード数を公表 しました。以降、毎年ハノーバーメッセで前年度までの出荷ノード数を 公表しています。ETGはノード数という定量的な数値を発表するにあ たり正確性が重要であると考えています。発表に際し、算出の根拠を 示す必要があると考えていました。EtherCATは当初FPGAベース のESCで始まり、この実装によるデバイスが多数ありましたが、ライ センスの仕組みによりその数値の把握は困難でした。もちろん、デバ イスメーカーはノード出荷数をETGに報告するような義務はありま せん。しかし、現在はASICベースが主流となっているため、チップ出 荷数を把握できます。現在でも互換性のため、またはFPGAの使用が 適したSubデバイスアプリケーションがあるので、FPGA IP Coreに よるEtherCATデバイスは存在しますが、この推定ではFPGAベー スのデバイスは控えめに全体の10%未満であると仮定しています。 また、マルチプロトコル対応のチップは市場シェアデータをもとに按 分しています。ASICの出荷数には市場在庫も含まれるため厳密には ノード数ではありませんが、一定の市場在庫で推移するので、多少の タイムラグでそのノード数に達するのは間違いありません。2024年 末の統計ではEtherCATノード数は8830万ノードです。 公開されているノード数から判断すると、このノード数は数ある産業 イーサネットの中でも最大と思われます。
ETGは今後もセミナー開催や展示会出展を多数行う予定です。開催計画中の採用セミナーや開発サポートセミナーはETG Webサイトで告知します。定期的にETGウェブサイトのイベントページをご覧ください。
https://www.ethercat.org/jp/events_2025.htm
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