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製品ナビ×EtherCAT特集
2019年11月1日 UPDATE

最新技術EtherCAT G
~1Gb/10Gbイーサネットへ拡張~

EtherCAT Technology Group 日本オフィス
Representative/Technologist 小幡正規
はじめに

2019年9月24日にフランクフルトで行われたETG技術委員会会議においてEtherCAT G/G10の仕様化が正式に承認されました。EtherCAT G/G10はEtherCAT 通信仕様を完全に維持したまま、物理層をGb/10Gbイーサネット化します。従来の100Mbit/sのEtherCATプロトコルとの互換性は保たれ1つのネットワーク内に共存できるように設計されています。EtherCAT GはEtherCAT仕様の新バージョンではなく拡張です。また、EtherCAT Gは従来のEtherCATを置き換えるものではありません。EtherCATは現在の時点で最高速のフィールドバスであり、数十バイト程度以下の周期プロセスデータ通信を行うI/Oやドライブなどのスレーブは100Mbit/sのまま使用します。図1に示すようにEther-CATは一般的な制御アプリケーションの範囲のほとんどをカバーできます。EtherCAT Gは、画像のリアルタイム通信やオーバーサンプリングに対応した計測ターミナルなどスレーブあたりの周期プロセスデータが大サイズになるような場合、多数のスレーブからなる巨大ネットワークセグメントで100Mbit/sでは通信帯域が不足するような場合に適用します。
ここでは、EtherCAT Gの技術とその性能について解説します。

EtherCAT Gの概要

EtherCAT GはEtherCATの物理層をGb/10Gbイーサネットに置き換えたものと考えられます。スレーブとしては、物理層構成部品をGb化、EtherCATスレーブコントローラー(ESC、通信チップ)のGb対応のみであり、アプリケーション層のマイコンやファームウェアはそのまま使用できます。ESCでは従来どおりフレームに対してオンザフライ処理が行われる点も変わりません。EtherCAT GスレーブがEtherCATスレーブと混在する場合、自動的にEtherCAT GスレーブはEtherCATスレーブとして動作します。 マスターについては、EtherCAT Gスレーブのみのネットワークを動作させるのであれば、コントローラーのネットワークカードとドライバーをGb化するだけになります。ただし、ブランチ・コントローラーに対応するためには拡張が必要なります。これについては後述します。 EtherCAT G/G10はIEEE802.1のGb/10Gbイーサネット規格に準拠し、ケーブルはそれぞれCat.5e/Cat6a以上を使用します。

ブランチ・コントローラー

同一フレームサイズを送信するための時間はEtherCATに比べ、単純にGでは1/10、G10では1/100になります。しかしながら、実際のアプリケーションでその性能が実現することはできません。通信にはフレームの送信時間に加え、ネットワーク内をフレームが伝送していく間の遅延時間があり、この時間はGb/10Gbイーサネットでもほぼ変わりません。EtherCAT G通信に置いて伝搬遅延を最適化し、通信効率を向上するための技術としてブランチ・コントローラーを開発しました(図2)。
ブランチ・コントローラーは大規模なネットワークを複数のセグメントに分割します。ブランチ・コントローラーにはEther-CAT G/G10によって幹線を構成するためのIN/OUTポートと、セグメントを接続するためのブランチポートが1個または複数個あり、これらに分割したセグメントを接続します。ブランチ・コントローラーの機能は幹線から受信したEtherCATフレームのセグメントへのルーティングです。EtherCATはフレームに対し接続した全スレーブを通過するルートを構成していました。ブランチ・コントローラーは互換性を保ちつつ、マスターから受信したEtherCATフレームを特定のセグメントにルーティングします。したがって、EtherCATフレームはマスターが指定したセグメントだけを通ることになり、伝搬遅延を大幅に削減できます。図3のようにマスターは周期タスクが完了すると、EtherCAT Gのフレームを各セグメントに対し連続して送信します。ブランチ・コントローラー内部では100Mbit/sのEtherCATフレームで各セグメントに送信します。このとき、EtherCAT G側は1Gbit/s、セグメント側は100Mbit/sであるために書くセグメントの通信は同時に並行して行われるので全体の通信のスループットの向上が期待できます。さらに大きな通信帯域が必要な場合はEtherCAT G10のブランチ・コントローラーで階層化することも可能です。

ブランチ・コントローラーはEtherCATスレーブであり、時刻同期機能ディストリビュートクロックの基準時計になれます。つまり、各セグメントの時刻同期も従来のディストリビュートクロックと同じしくみで実現できます。
ブランチ・コントローラーのルーティングのための 情報と戻りフレームの優先度情報はフレームのヘッダなどに含まれます。EtherCATマスターがブランチ・コントローラーに対応するためには、これらヘッダの制御を行うことになります。また、ブランチポートは論理EtherCATマスターポートとして考えることができます。つまり、1つのマスターアプリケーション内でブランチポートごとにEtherCATマスターのインスタンスを生成できることが要件です。複数のネットワークポートに対してEtherCATマスターを実行できるようなマスターアプリケーションであればブランチ・コントローラーの対応は容易です。PLCタイプや組み込み型PCなどハードウェアの制限からネットワークポートの増設が難しい場合でもブランチ・コントローラーを活用して仮想的にマスターポートを増設できることにもなります。

ブランチ・コントローラー活用の性能予測

1軸あたり8byteの入出力をもつサーボドライブ128台からなるEtherCATネットワークについて性能比較を行った試算を示します。比較は、EtherCATとEtherCAT Gスレーブを1セグメントで接続した場合、ブランチ・コントローラーで1セグメントあたり16台からなる8セグメントに分割したEtherCATとEtherCAT Gスレーブの合計4ケースです。

1) EtherCATライントポロジー
すべてEtherCATスレーブによりライントポロジーでネットワークを構成した標準的なネットワークです。この場合、フレーム送受信時間+伝搬遅延=通信時間は237μsとなります。
2) EtherCAT Gライントポロジー
すべてEtherCAT Gスレーブにより構成した場合です。フレーム送受信時間は1/10となりますが、伝搬遅延は主に物理層ハードウェアに起因するためほとんど変わらず、通信時間は150μsとなり、それほど大きな性能向上は見込めません。
3) EtherCAT G 100Mbit/sセグメントにブランチ
ブランチ・コントローラーによって8個のセグメントに分割します。セグメントは従来の100Mbit/sのEtherCATスレーブを使 用します。通信時間は49μsとなり、EtherCATライントポロジーに比べ約5倍の高速化を図ることが可能です。
4) EtherCAT G 1Gbit/sセグメントにブランチ
前項に加え、スレーブをすべてEtherCAT G化した場合です。通信時間は34μsとなり、最も高速になります。

現実的なアプリケーションとコストの要件から3番目の幹線をEtherCAT Gとブランチ・コントローラーで構成し、従来のEtherCATスレーブを活用する方法が最適であると考えられます。

まとめ

EtherCAT Gの拡張はETGにおいて今後仕様に追加されドキュメント化作業を行います。対応したEtherCATスレーブコントローラーはFPGA IP Coreで提供される予定です。いずれも提供時期は2020年内を目標としています。 前述のようにEtherCAT Gは一部の大きな帯域を必要とするデバイスに採用され、あるいは大規模アプリケーションにおいてブランチ・コントローラーとEtherCATスレーブの組み合わせで活用する技術です。標準的なEtherCATスレーブをEtherCAT G化する必要はありません。さらに高帯域を必要とする大規模なアプリケーションではEther-CAT G10を上位に使用して階層化ができます。 またEtherCAT Gは2017年に公開したEtherCAT TSN通信プロファイル仕様に準拠し、TSNネットワーク内で活用できます。

EtherCAT Technology Group (ETG)について

ETGはEtherCATの技術仕様の管理と拡張、セミナーや展示会などのプロモーションを行っています。2019年10月7日現在、ワールドワイドのメンバー数は5535社からなる世界最大のフィールドバス団体です。日本国内では650社が参加しています。

IIFES2019に出展!

ETGは今年もIIFES2019に出展します。ブースでは30社が出展し日本で販売・サポート可能なEtherCAT対応製品をご紹介します。ブース位置:西1ホール 『ブースNo.1-29』です。
ETG出展社セミナー会場(西4ホール):
セミナータイトル「EtherCATの基本技術と最新動向」(仮)
11月28日(木)15:00~15:40
11月29日(金)15:00~15:40
皆様のご来場を心よりお待ちしております。

問い合わせ先
EtherCAT Technology Group日本オフィス
〒231-0062 神奈川県横浜市中区桜木町1-1-8 日石横浜ビル18F
TEL : 045-650-1610
FAX : 045-650-1613
お問い合わせ : info.jp@ethercat.org
技術サポート : support.jp@ethercat.org
ウェブサイト : www.ethercat.org/jp.htm
EtherCATメンバーリンク:https://www.ethercat.org/jp/members.php


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