液体水素(-253℃)に用いる極低温用標準白金抵抗温度計を開発
2017/06/06
(株)ネツシン
~1000ΩでITS-90に準拠する温度計の開発に成功~
1) ポイント
■日本工業規格(JIS)の下限温度を大きく下回る液体水素の温度(-253℃)において高精度温度計測が可能な温度計を開発
■白金抵抗素子の高密度化により、従来より10倍の高感度化と-260℃の低温域において±0.005℃の高精度測定を実現
■-253℃付近の液体水素や超伝導利用分野での計測・制御技術の向上に貢献
2)概要
株式会社ネツシンは、埼玉県のH28年埼玉県新技術・製品開発補助事業の支援により、温度の国際的な基準である1990年国際温度目盛(ITS-90)に準拠する-260℃まで使用可能な極低温用標準白金抵抗温度計(以下、SPRT)の開発に成功した。
近年、燃料電池自動車の開発、普及などに伴い、多量の水素を製造、運搬、貯蔵する必要性が高まっている。大量の水素を効率的に運搬・貯蔵する手段として、水素を-253℃まで冷却して得られる液体水素を利用する方法がある。液体水素を安全に扱うには、-253℃付近の極低温において高精度に温度計測をする必要があるが、現在の日本工業規格(JIS)に規定されている温度計(計測)の下限温度は-200℃までである。また、従来の工業用温度計では、温度に対する感度や製品の品質の均一性に問題があるため、極低温での精密計測に適した温度計を安定的に供給することが難しい状況であった。
そこで、弊社では、液体水素の温度-253℃という極低温を精密に計測できる白金抵抗温度計の開発を目指した。まず、極低温域において高感度化を実現するために、温度計のセンサ部である白金抵抗素子の抵抗を、従来品の10倍(0℃で1000Ω)に高抵抗化することとした。そして、JISの下限温度よりも低い温度目盛を作るために、-260℃までの低温域において国際的な温度の基準(ITS-90)に準拠したSPRTを開発することとした。
本開発品の性能は、我が国の温度の基準を所有する国立研究開発法人 産業技術総合
研究所(以下、産総研)の協力のもと行なった。産総研は、日本国内でITS-90を実現し、かつ、日本国と他国との温度の基準の国際整合性を保証している国内唯一の機関である。
産総研が保有する我が国の温度の基準と開発品を比較することにより性能評価を行なった結果、本開発品は、-260℃までの低温域において±0.005℃の範囲でITS-90と整合(ITS-90に準拠)しており、液体水素の温度(-253℃)の高精度な測定に適用できることが確認された。
3)開発の背景と動機
燃料電池自動車などの普及に伴って、水素エネルギーによる社会インフラが急速に発展し、水素の需要が大きくなると考えられている。水素の需要増により、水素の安定供給が求められるようになることから、大量の水素の貯蔵・運搬が重要になってくる。
常温常圧で気体である水素を-253℃まで冷却し液化すると、体積が1/800まで圧縮できるため、大量の水素の貯蔵・運搬が可能となり、その効率が劇的に向上する。液体水素の製造や貯蔵・運搬の効率化、および、安全管理には、信頼できる高精度の温度計が必要となる。しかし、従来の日本工業規格(JIS)の工業用温度計では、液体水素の温度(-253℃)がJISの範囲外であるとともに、温度に対する感度や製品の品質の均一性に問題があるため、極低温での精密計測に適した温度計を安定的に供給することが難しい状況であった。
そこで、弊社では、液体水素の温度である-253℃という極低温において精密に温度計測を可能とする白金抵抗温度計の開発を目指した。まず、極低温域において高感度化を実現するために、白金抵抗素子の抵抗を室温において従来品の10倍となる1000Ωにすることとした。そして、JISの下限温度よりも低い温度目盛を作るために、-260℃までの低温域において国際的な基準(ITS-90)に準拠したSPRTを開発することとした。
4)開発品
本開発品の実現には、弊社で製造する常温域以上の高い温度において製品化しているSPRTに用いているセラミックス型白金抵抗素子(以下、白金素子)と同様の高純度白金エレメント(99.99%以上の高純度の十数ミクロンの極細白金線)やセンサ素子を構成する厳選したセラミック素材(99.9%以上の高純度セラミックス多孔管)を用いていることで、極低温域にてITS-90に準拠するSPRTを実現した【6)仕様を参照】。
また、弊社の独自の技術により製品化している世界極小級の白金素子の作製技術を
活かし、素子サイズを外径φ1.8mm、長さ15mmとすることで、国内外の同業他社と比べての優位性を確立した。また、サイズの小型化によりセンサの熱容量が小さくなり、液体水素の貯蔵・運搬にとって障害となる熱流入を抑制する効果も期待できる。更に、小型化は設置できる場所の可能性を広げることから、液体水素だけに限らず、超伝導利用など他の用途でも活用されていくものと期待される。
5)産総研での性能評価
産総研では、我が国の温度の基準の開発で培われた技術により、-272.5℃までの低温において0.001℃の高精度により温度計を評価する技術がある。
そこで、液体水素に用いるITS-90に準拠する白金抵抗温度計を開発するために、産総研の協力のもと、我が国の温度の基準と開発品を、-260℃〜0℃の温度範囲で比較し、その性能が評価された。開発品のうち任意の4本を産総研にて評価した結果、評価した開発品すべてが±0.005℃の範囲で我が国の温度の基準、すなわち、温度の国際基準であるITS-90と整合していることが確認された。
6)仕様(開発品形状)
製品名:極低温用標準白金抵抗温度計
型式:NSR-13K-1000
白金抵抗素子:純白金をセラミックスで覆う外径φ1.8mm/長さ15mm
抵抗値:1000Ω(at0℃)
規格・温度特性:1990年国際温度目盛(ITS-90)準拠
分解能:0.8ohm/℃(at -253℃、従来のPt100の10倍)
測定精度:0.01℃ オーダー
保護管:SUS316Lφ3.0mm-長さ30mm
リード線:白金線φ0.25mm
導線形式:4導線式
7)開発の成果
1. セラミックス素子の外径φ1.8mm、長さ15mmの1000ΩでITS-90に準拠する世界に例のないSPRTの開発に成功した。
2. 1000ΩのSPRTの完成により、従来の日本工業規格の白金抵抗温度計Pt100と比較して極低温域において10倍の測定感度を実現した。
3. 10K(-263℃)冷却試験後の水の三重点温度(0.01℃)での繰り返し安定性が±1mK(0.001℃)以内であった。
4. 産総研の評価において、ITS-90と±0.005℃以内で整合していることを確認した。
8)社会的な動向
水素の運搬や貯蔵に携わる産業分野において、今後、大量の液体水素を扱うことを想定すると、温度計測における技術向上は期待が大きい。-253℃付近の温度を正確に測れる温度計の開発とその安定的な供給が可能になることにより、管理面や制御における考え方や捉え方が変わることが期待される。実際に液化した水素は-253℃であるため、大きな熱流入の影響により温度が上昇すると、液化した水素は蒸発により消費してしまう量が多くなる。その蒸発で消費される水素の量を正確な温度管理で抑制すれば、大きな経済的損失を防ぐことが可能になると思われることから、より精密な温度管理は、液体水素の貯蔵・輸送においては重要なファクターになってくる。
また、水素は温室効果ガスであるCO2の排出がゼロのクリーンな新エネルギーとして期待されているため、国家が推奨する水素社会の実現を目指すときに、水素の運搬や貯蔵技術、水素ステーション、燃料電池自動車、船舶、発電(水素ガスタービン)などの技術革新が目覚ましい速さで進んでいることで、莫大な液体水素の製造・運搬・貯蔵が必要になると予想される。例えば、液化天然ガス(-162℃)においても工程ごとに温度計測が行われているが、その製造ライン、貯蔵所、および、LNG運搬船などには相当数の温度計が設置されている。近い将来における水素社会の実現により、本事業で開発した温度計やその技術の波及効果は、LNGと同規模、若しくは、それ以上の規模になることが想定される。このため、温度計の安定供給は水素社会のインフラを支えるために非常に重要なファクターとなると考えている。
9)今後の予定
開発品の性能は、世界的にも非常に高いレベルであることが、産総研の評価により確認された。本開発品により、今後、液体水素の温度管理や制御のみならず、超伝導利用や科学研究における高精度な温度測定・温度制御にも貢献できると考えている。
10)販売について
販売価格:@500,00-~600,000-
販売時期:2017年7月
1) ポイント
■日本工業規格(JIS)の下限温度を大きく下回る液体水素の温度(-253℃)において高精度温度計測が可能な温度計を開発
■白金抵抗素子の高密度化により、従来より10倍の高感度化と-260℃の低温域において±0.005℃の高精度測定を実現
■-253℃付近の液体水素や超伝導利用分野での計測・制御技術の向上に貢献
2)概要
株式会社ネツシンは、埼玉県のH28年埼玉県新技術・製品開発補助事業の支援により、温度の国際的な基準である1990年国際温度目盛(ITS-90)に準拠する-260℃まで使用可能な極低温用標準白金抵抗温度計(以下、SPRT)の開発に成功した。
近年、燃料電池自動車の開発、普及などに伴い、多量の水素を製造、運搬、貯蔵する必要性が高まっている。大量の水素を効率的に運搬・貯蔵する手段として、水素を-253℃まで冷却して得られる液体水素を利用する方法がある。液体水素を安全に扱うには、-253℃付近の極低温において高精度に温度計測をする必要があるが、現在の日本工業規格(JIS)に規定されている温度計(計測)の下限温度は-200℃までである。また、従来の工業用温度計では、温度に対する感度や製品の品質の均一性に問題があるため、極低温での精密計測に適した温度計を安定的に供給することが難しい状況であった。
そこで、弊社では、液体水素の温度-253℃という極低温を精密に計測できる白金抵抗温度計の開発を目指した。まず、極低温域において高感度化を実現するために、温度計のセンサ部である白金抵抗素子の抵抗を、従来品の10倍(0℃で1000Ω)に高抵抗化することとした。そして、JISの下限温度よりも低い温度目盛を作るために、-260℃までの低温域において国際的な温度の基準(ITS-90)に準拠したSPRTを開発することとした。
本開発品の性能は、我が国の温度の基準を所有する国立研究開発法人 産業技術総合
研究所(以下、産総研)の協力のもと行なった。産総研は、日本国内でITS-90を実現し、かつ、日本国と他国との温度の基準の国際整合性を保証している国内唯一の機関である。
産総研が保有する我が国の温度の基準と開発品を比較することにより性能評価を行なった結果、本開発品は、-260℃までの低温域において±0.005℃の範囲でITS-90と整合(ITS-90に準拠)しており、液体水素の温度(-253℃)の高精度な測定に適用できることが確認された。
3)開発の背景と動機
燃料電池自動車などの普及に伴って、水素エネルギーによる社会インフラが急速に発展し、水素の需要が大きくなると考えられている。水素の需要増により、水素の安定供給が求められるようになることから、大量の水素の貯蔵・運搬が重要になってくる。
常温常圧で気体である水素を-253℃まで冷却し液化すると、体積が1/800まで圧縮できるため、大量の水素の貯蔵・運搬が可能となり、その効率が劇的に向上する。液体水素の製造や貯蔵・運搬の効率化、および、安全管理には、信頼できる高精度の温度計が必要となる。しかし、従来の日本工業規格(JIS)の工業用温度計では、液体水素の温度(-253℃)がJISの範囲外であるとともに、温度に対する感度や製品の品質の均一性に問題があるため、極低温での精密計測に適した温度計を安定的に供給することが難しい状況であった。
そこで、弊社では、液体水素の温度である-253℃という極低温において精密に温度計測を可能とする白金抵抗温度計の開発を目指した。まず、極低温域において高感度化を実現するために、白金抵抗素子の抵抗を室温において従来品の10倍となる1000Ωにすることとした。そして、JISの下限温度よりも低い温度目盛を作るために、-260℃までの低温域において国際的な基準(ITS-90)に準拠したSPRTを開発することとした。
4)開発品
本開発品の実現には、弊社で製造する常温域以上の高い温度において製品化しているSPRTに用いているセラミックス型白金抵抗素子(以下、白金素子)と同様の高純度白金エレメント(99.99%以上の高純度の十数ミクロンの極細白金線)やセンサ素子を構成する厳選したセラミック素材(99.9%以上の高純度セラミックス多孔管)を用いていることで、極低温域にてITS-90に準拠するSPRTを実現した【6)仕様を参照】。
また、弊社の独自の技術により製品化している世界極小級の白金素子の作製技術を
活かし、素子サイズを外径φ1.8mm、長さ15mmとすることで、国内外の同業他社と比べての優位性を確立した。また、サイズの小型化によりセンサの熱容量が小さくなり、液体水素の貯蔵・運搬にとって障害となる熱流入を抑制する効果も期待できる。更に、小型化は設置できる場所の可能性を広げることから、液体水素だけに限らず、超伝導利用など他の用途でも活用されていくものと期待される。
5)産総研での性能評価
産総研では、我が国の温度の基準の開発で培われた技術により、-272.5℃までの低温において0.001℃の高精度により温度計を評価する技術がある。
そこで、液体水素に用いるITS-90に準拠する白金抵抗温度計を開発するために、産総研の協力のもと、我が国の温度の基準と開発品を、-260℃〜0℃の温度範囲で比較し、その性能が評価された。開発品のうち任意の4本を産総研にて評価した結果、評価した開発品すべてが±0.005℃の範囲で我が国の温度の基準、すなわち、温度の国際基準であるITS-90と整合していることが確認された。
6)仕様(開発品形状)
製品名:極低温用標準白金抵抗温度計
型式:NSR-13K-1000
白金抵抗素子:純白金をセラミックスで覆う外径φ1.8mm/長さ15mm
抵抗値:1000Ω(at0℃)
規格・温度特性:1990年国際温度目盛(ITS-90)準拠
分解能:0.8ohm/℃(at -253℃、従来のPt100の10倍)
測定精度:0.01℃ オーダー
保護管:SUS316Lφ3.0mm-長さ30mm
リード線:白金線φ0.25mm
導線形式:4導線式
7)開発の成果
1. セラミックス素子の外径φ1.8mm、長さ15mmの1000ΩでITS-90に準拠する世界に例のないSPRTの開発に成功した。
2. 1000ΩのSPRTの完成により、従来の日本工業規格の白金抵抗温度計Pt100と比較して極低温域において10倍の測定感度を実現した。
3. 10K(-263℃)冷却試験後の水の三重点温度(0.01℃)での繰り返し安定性が±1mK(0.001℃)以内であった。
4. 産総研の評価において、ITS-90と±0.005℃以内で整合していることを確認した。
8)社会的な動向
水素の運搬や貯蔵に携わる産業分野において、今後、大量の液体水素を扱うことを想定すると、温度計測における技術向上は期待が大きい。-253℃付近の温度を正確に測れる温度計の開発とその安定的な供給が可能になることにより、管理面や制御における考え方や捉え方が変わることが期待される。実際に液化した水素は-253℃であるため、大きな熱流入の影響により温度が上昇すると、液化した水素は蒸発により消費してしまう量が多くなる。その蒸発で消費される水素の量を正確な温度管理で抑制すれば、大きな経済的損失を防ぐことが可能になると思われることから、より精密な温度管理は、液体水素の貯蔵・輸送においては重要なファクターになってくる。
また、水素は温室効果ガスであるCO2の排出がゼロのクリーンな新エネルギーとして期待されているため、国家が推奨する水素社会の実現を目指すときに、水素の運搬や貯蔵技術、水素ステーション、燃料電池自動車、船舶、発電(水素ガスタービン)などの技術革新が目覚ましい速さで進んでいることで、莫大な液体水素の製造・運搬・貯蔵が必要になると予想される。例えば、液化天然ガス(-162℃)においても工程ごとに温度計測が行われているが、その製造ライン、貯蔵所、および、LNG運搬船などには相当数の温度計が設置されている。近い将来における水素社会の実現により、本事業で開発した温度計やその技術の波及効果は、LNGと同規模、若しくは、それ以上の規模になることが想定される。このため、温度計の安定供給は水素社会のインフラを支えるために非常に重要なファクターとなると考えている。
9)今後の予定
開発品の性能は、世界的にも非常に高いレベルであることが、産総研の評価により確認された。本開発品により、今後、液体水素の温度管理や制御のみならず、超伝導利用や科学研究における高精度な温度測定・温度制御にも貢献できると考えている。
10)販売について
販売価格:@500,00-~600,000-
販売時期:2017年7月